第2部ウォンの章 第2話

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通常のラボの、更に下層に存在する一室。

ここには、スタッフの中でも、ほんとうにごく一部のものしか入室出来ない。

照明を落としたその部屋に、ウォンとイリア、そしてもう一人シムーンが

そこに存在していた。

 

存在?

 

ベッドに固定され、体中に電極が張り付き、からまる蔦のごとくコードが

全身を這っている。

見開いた目には、意識が在るのかどうか、判断がつけられない。

それでもシムーンは、そこに存在した。

「順調のようだな」

「そうね」

「しかし、覚醒してからも、調整が必要か…」

「それはしかたないわ、これから起こりうる副次的な反応には、今後量産

の為には、常にモニターする必要があるわ」

「まあ、そのためのプロトタイプであるのだからな」

「そうね……」

暫くの沈黙。

「名前はどうするの?」

「リリス・エアリス」

「楽園を飛び出し、全ての母となるもの。そして地球そのもの…」

「皮肉だよ、すべてに対してのね」

「たしかに、ジョークにもならないわ」

エレベータの中で、イリアが口を開く。

「しばらく、ここを開けるそうね」

「あぁ、月に行く」

フォン・ブラウンへの軍需企業への視察、時期主力モビルスーツ

の研究、などなど……

一介の将校が、関わる話ではないはずだ。

「軍以外にも、手をまわしてるのね」

「使える手段は、多いほうがいい、選択の幅が広くなるからな」

エレベータを降り、照明を半減した通路を歩く。

「そういえば『あれ』の弟さんも、月らしいわ。たしか…グラナダだ

ったわね?」

イリアが思い出したように、ファイルからレポートを取り出す。

「全寮制の学校ね、かなりレベルの高い所よ」

といいながら、微かに目が笑っているのを、ウォンは見逃さない

「どうするの?」

「会いに行くさ、遺品ぐらいは届けてやらないとな」

「郵送してしまったら?」

「こういうことは、直接渡すことに意義がある」

「偽善ね」

「そのとおりだ。しかし興味もある、彼女が大切にしていた『弟』

がいかなるものか、ということにな」

「そう、今の私には、興味はないわね」

「君の家族は?」

 

「それも、お仕事ですの?」

威圧的な目でウォンを見つめた。どうやらこの手の話は嫌いらしい。

ウォンはこの話を切り上げる事にした。


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